OPENING
誘われるがまま、呼ばれるがまま。
鷺沢文香の姿を求めて、あなたは薄暗い細道を歩く。
そこは事務所のすぐそばのはずなのに、全く見知らぬ場所だった。
追ってくる不安を振り払うように、その先へ見える小屋へ、だんだんと足早に。
ぎぃ、と、小屋の木の扉が音を立てて開く。漏れる明かりが夜道を照らした。
「……ようこそ。プロデューサーさん」
文香の姿がそこにあった。
小屋の中は、四方が本棚で埋め尽くされていた。さしずめ小さな図書館だ。
しかしなぜ、こんなところに呼ばれたのだろう。
招かれたあなたは、文香がちゃんとそこにいたことに安堵しながら考える。
背後の扉が閉まりきったことにも気づかず。
「謎解きはお好きですか」
突然の問いかけに、あなたはとまどいながらもうなづく。
「……ここに、12冊の書があります。第1巻から第12巻まで。シリーズものです」
文香はほほえみながら、近くのテーブルを手で示した。
たった一段、いっぱいになったブックシェルフが載っている。
「プロデューサーさんには、この書をすべて読んで、謎を解き明かしてほしいのです」
そのためにここへ呼んだのだろうか。
「謎を解くと、ここから出るための答えが導けるのです」
……? ここから出る? 思わず背後の扉を押した。
開かない……。
文香は話し続ける。
「最後の答えがわかったら、私に教えてくださいね」
こんなに積極的な文香はなかなか見たことがない。新たな一面だ。
……いや、それよりも。あなたは今、文香とともに、狭い小屋へ閉じ込められている!
「……くれぐれも、先走って誤った答えを発しないように」
ノリノリな文香には訊きづらいが……どうしても謎を解かないといけないのだろうか。
「……ええ。どうしても、解いてください」
どうしても、謎を解かないといけないらしい。
「はじめましょう、プロデューサーさん……謎解きを」
文香は並んだ本から1冊を抜き取った。第10巻。タイトル欄には『終演(しゅうえん)』とある。
手渡されたその本は、何百ページもある大作だ。ページをめくる。
しかし書は、たった1ページ以外、すべて白紙だった。
分厚い本に載っていたのは、2色刷りの小さなクロスワードだけ。
「……さぁ。煮るなり焼くなり……ではありませんが、切るなり書くなりしてください」
文香がハサミとペンを手向ける。切ってもいいの?
「ええ。構いません。さぁ、全巻きっちり読み干して──」
あなたは、文房具たちを受け取った。
あなたは、この状況を受け入れる。
鷺沢文香からの挑戦。謎を解き、「最後の答え」を、この手に握ったペンで描け。